~韓国との雨水浸透技術交流


 韓国ソウル大学雨水研究センター(所長 韓武榮教授)の要請を受け長谷川理事、宮澤理事長が訪韓(2月12日~15日、)。
 滞在中、韓国国会会議室にて水基本法研究会委員(国会議員ら)に水循環に関するセミナー、ソウル大学では土壌調査方法、浸透技術に関する講演をしました。
 参加者は熱心にメモを取り多くの質問がありました。韓教授からは当会の20年に及ぶ研究、実践活動から開発された理論・技術は世界に通用すると評価されました。
 韓国では、まだ本格的な大規模浸透施設はありませんが今年度、国会敷地内に浸透施設モデル事業が計画されています。当研究会はこのモデル事業への技術協力と、ソウル大学雨水研究センターと協働し浸透技術を世界に発信していくことに合意しました。

 

写真は左から、国会議事堂敷地(中央広場4面予定地)、 浸透施設モデル事業予定地(1面の広さ)、中央韓教授(有識者委員)、国会水基本法研究会委員会の会議、出席メンバー(所属議員は15名)、ソウル大学、浸透技術研修会 、ソウル大学での質疑応答

               ~海外専門家との雨水浸透技術交流~


 世界を舞台に雨水研究の第一人者として活躍されている韓国ソウル大学建設環境工学部の韓教授(ハン)一行が千葉県印旛沼の植生(葦)による水質浄化実験施設の視察に訪れました。
 この施設は、当研究会の相談役堀田和弘先生のご指導により実施されています。当日は、堀田先生他、北千葉道路建設事務所と水辺環境研究所の皆様方に施設のご案内を頂きました。
 視察終了後、今回、訪問の主目的である雨水の土壌浸透理論・技術をテーマに会談しました。先生方は、かねてより当研究会の持つ土壌浸透理論・技術に着目されており、先生方の専門的質疑に応答するかたちの会談となりました。今後、この理論・技術を海外に普及させるため協働して活動していくことを確認しました。

     ~韓国における国土の水資産管理~
                       ソウル大学 建設環境工学部教授
                                      韓 武榮
 

韓国の国土の資産は土地と水で成り立っている。水と関連した資産のリストには、見える水(河川水、湖沼水)と、直接見えない水(土壌水、地下水、草木に蓄えられた水分、大気中の水分)がある。
 このような、それぞれの水の要素が互いに相互作用し、バランスを合わせて生態系と気候を維持して人類に用水を供給してきた。この全ての水の循環は雨水から始まる。
 このような要素を個人の資産として比喩すれば、容易に説明することができる。一年に降る雨水は、成果給年棒だ。干ばつは年棒が減ったのと同じだ。
 ほとんどの雨水は、韓国の国土から蒸発した雲から発生する。たくさん蒸発させることで雲が湧き、雨が降る。これは個人が頑張って仕事をして、年棒が多くなっているのと同じだ。たまに遠い海から来る台風はボーナスのようだ。河川水はすぐに利用することができるので現金のようだ。地下水は先祖が積んでおいた現金性資産のようだ。
 土壌水や、草木に蓄えられた水分、大気中の水分は、貴重な財産であるが、すぐに現金で使用できない証券と同じだが、その量は、河川水の量よりはるかに多い。
 今韓国の水管理は、分別のない家長が資産を管理するように愚かだ。河川から水を汲んで都市の上水道に使用した後、下水道に流す。処理水は再び川に戻るため、河川に流れる水資源の量は同じだが、下流になるほど水質が悪化している。上水道の取水源を上流に移動しなければならない理由だ。
 雨が沢山降ると川を通じて海に全部捨てた後、日照りが続けば、水不足を経験する。これを防止するには、上水道の節水や、都市部から離れた場所にも、小規模の貯留施設を多く分散して設置することを最優先としなければならない。地下水は過去数十年、数百年間、雨水が地中に浸透したものだ。これは、先祖が残した遺産のようだ。地下水位を一定に維持するためには、使用した水量を、再び雨水を浸透させ、補填しなければならない。道路や屋根で被覆された面積が多い都市部では、雨が降っても地表面から雨水が浸透できないために補充することができない。そのため地下水位は益々低下する。先祖が残した遺産を考えずに使ってしまうわけだ。その子孫にも、我々が受けただけの遺産を受けさせてあげる義務がある。地上近くの土中に浸透した雨水は、土の間隙中に貯留され土壌水となる。その間、土中をゆっくり移動して、地下水の涵養や、土中から染み出して河川に水を供給して、冬でも河川が乾かないようにしてくれる。
 土壌水の量は、河川水よりもはるかに多い。国土全体から雨水が浸透されれば、各流域の浸透雨水は地表面から蒸発、その蒸発水は雲となり、適度な降水量をもたらしてくれる。空に雨の種を蒔いたことになる。また、しっとりと濡れている土地は気化熱によって暑さを冷やしてくれる。雨水を早く捨てて、からからに乾いた都市は蒸発して気化熱を作る土壌水がない。そのため雨水の種を蒔くことができず降水量が減少し、水不足や猛暑が発生する悪循環が続けられている。
 植物の身体を構成している表皮は、特に葉の裏側に無数の気功を備え、蒸散作用を通じた気化熱で大気を冷やしてくれる。気化熱により発生した水蒸気は再び雲になり、雨になって大気中の汚れも洗濯している。
木立の多い森の中が涼しくて水の多い理由だ。また、発生した水蒸気は、雲になって太陽の直射日光を防ぎ暑さを和らげる働きもしている。
 いま私たちは、雨を厄介な存在と認識して、すべての建物や道路、山地、畑の雨水を早く川に捨てるために、河川水を主要管理対象としている。これは稼いだお金の一部を貯金する代わりにみんな使ってしまって、ない時は飢えているのと同じだ。
各流域の土壌水を蒸発させて雲を湧かせる水循環を阻害する行為は、まじめに仕事をしないために、成果給を受けられないのと同じだ。地下水の水位を雨水で充填することは、子孫に遺産をのこしているのと同じだ。
 韓国の水資産を分析してみると、水管理の優先順位を決定するのに役立つ事ができる。総水資産の90%は、土壌水と草木に蓄えられた水分、大気中に含まれている水分など、見えない水だ。河川に含まれている水の量は、65億トンで、総水資産の2.7%にしかならない。一年に降った雨水の量1270億トンに比べると非常に小さな数値だ。
 地下水は子孫に譲り渡す遺産であることから、低下した地下水の量を赤字で計算しなければならない。
このような現象は今、韓国の偏狭な水資源政策の結果だ。水資源計画では河川水、湖沼水、地下水など人類が使用する水だけを考慮する。
 雨水は速やかに捨てなければならない邪魔な物とし管理されている。地下水は、開発して抜いて使うことだけを考慮して、補填する考えをしない。水資産の大半を占めている土壌水や草木に蓄えられた水分、大気中に含まれている水分などの存在は考慮されていない。まして河川水、地下水など見える水との関係はもっと考慮しない。水管理方法の新たなパラダイムが必要である。雨水を全ての水資源の根源と考えて、各流域の土壌に最大限、雨水を浸透させて一定期間貯留する健全な水循環を構築する必要がある。
 本来、各流域では、自然サイクルによる雨水の蒸発、降下、流下、浸透が繰り返されていた。今後は、地下水涵養や、地表面からの蒸発、草木の蒸散作用による周辺の温度コントロールなどの効果に期待し、そこに生息する全ての生物に、良好な生活空間を提供できる水基本法を整備しなければならない。家庭では収入にあわせて、支出を節約、残りを貯蓄して子孫に譲り渡すように、国土の水管理を上手くするためには、水資産の各要素の特性と相互関係を考慮した、新たなパラダイムの水管理方法を基礎にした水基本法を作り必要がある。それにより、日照り、猛暑などの気候変化に適応、気候を回復できる能動的糸口を見出すことができる。

Professor Mooyoung Han
Dept. of Civil and Environmental Eng.
#35-302 Seoul National University
#1 Daehakro Kwanakgu, Seoul, Korea
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 ここに記載されている内容は、e2news、433号(2016年11月17日)のコラムに掲載されたものです。寄稿者の了解を得て、原文の一部を削除、追記、編集しています。
                                                         一般社団法人 環境地水技術研究会
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