今世紀は環境の世紀、水の世紀ともいわれています。
私たち人類は今世紀に至るまで飛躍的な発展と繁栄を続けてきました。その反面、あらゆる自然を破壊し続けた結果、多くの環境不利益が生じています。近年、毎年のように世界各地で発生する大規模洪水は、国の財政基盤を脅かすほど被害と損失が甚大です。
急峻な地形と年間降雨量の多い日本も古来より治水事業を重要な事業として、長い年月と膨大な費用を費やし対応してきました。しかし、自然災害である洪水を全て防ぐことは現実には難しい。国も今後の治水対策は環境との両立を考えています。
こうした中に、雨水を一時貯留し土壌へ浸透させる環境調和型の治水手法が、一部の流域で実践され注目を集めています。この手法の特徴は、雨水を土に還すことで流出抑制と環境回復効果が期待できる点にあります。
土は膨大な雨水を蓄える能力があります。その結果、地表面の流出抑制や水質浄化、そして浸透した雨水は長い年月を経て25%~50%が地下水となり地中に留まります。
このように、人類にとって最も大きな課題である治水手法も大きく変わろうとしています。しかし、これまでに設置された多くの雨水貯留浸透施設は、土壌の物
理性に立脚した技術の体系とはいえず、場合によっては土壌の物理性を阻害するような計画・施工により環境不利益が生じることさえ危惧されています。
科学的根拠に基づいた現地土壌特性を知るための調査方法や、土壌浸透理論、そして長年の実践により得られたデータを東京大学環境地水学研究室と解析。共同
研究により開発された浸透技術、検証資料などを習得、周知できる人材が必要であると痛感し、有識者によるセミナー、技術講演会などを開催するために環境地 水技術研究会を設立致しました。
先般、施行された国の水循環基本法は基本理念、基本計画、基本的施策などについての目的を掲げ、流域の健全な水循環の維持・向上を図るため、雨水浸透能力
や水源涵養能力を有する森林、河川、農地、都市施設等の整備その他必要な施策を講ずるよう求めています。まさに、この基本法は当研究会の目的と合致してお ります。
今後も土壌浸透の先駆者として実践、検証し、知り得た情報を公開してまいります。
このたび、「環境地水技術研究会」が発足しました。
この会の使命は、土壌の特性を考慮した保水・透水技術、特に雨水貯留浸透手法の発展を図り、その技術を普及することにあります。土壌の複雑な保水・透水特性の理論的支柱となる学問が「環境地水学」なので、本研究会を「環境地水技術研究会」と命名しました。
地水、すなわち土地に存在する水は、人間と生命に多くの恩恵をもたらしています。
主な恩恵は、
①降水を貯留し、洪水を緩和する(雨水貯留)。
②蒸発によって地表を冷却する。
③植物の根に水を供給する。
④地下水を涵養し、地下水位変動を緩和する。
⑤土壌中の様々な物質を輸送するとともに、環境変動を緩和する。
⑥土壌中の生命を支える(微生物、土壌動物、植物の種子など)。
などです。
これらの恩恵をより大きなものとするために、「環境地水学」は、多くの基礎研究において世界をリードする研究成果を出してきました。本研究会は、こうした学術的成果を、環境地水技術として効果的に社会に実装することを目指します。
その際、重要なことは、世界の土壌は生成履歴や気候、風土によりさまざまな個性を持つので、それぞれの土壌に適した環境地水技術を適用しなければならない、ということです。
たとえば、我が国では、透水性や保水性に優れた火山灰土壌(関東ロームはその代表例)の比率が高く、この土壌の個性と調和した技術が、洪水緩和や雨水浸透貯留などの様々な便益を生み出します。
「環境地水技術研究会」は、「環境地水学」に依拠しつつ、できるだけ土壌特性を考慮した保水・透水技術、特に雨水貯留浸透に関する技術を開発・普及します。
第5次IPCC報告で警告されている今後の更なる地球温暖化傾向に対する適応策としても、本研究会が提唱する土壌特性に見合った新技術が大きく貢献することが期待されます。
皆様のご理解、ご協力を仰ぐ次第です。
環境地水技術研究会広報部
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環境地水技術研究会理事長
宮澤 博
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