土の役割、組成、水の性質、粘土の性質、土の構造などの基本概念が提示される。土壌物理学を学ぶ意義、土の構成を表現する基本量、 粘土の性質、吸着とイオン交換、分散と凝集、団粒化、植物や動物によるマクロポアの形成など土を単純な自然物と見るのではなく、様ざまな機能を持った複雑 多様な存在として見ることができるようになる。
実際の現場では現地調査、浸透施設の施工時、どこに留意する必要があるか理解することができる。また土壌特性を極力阻害しない調査方法、浸透施設の施工に役立つ。
土がどのようにして水を保持するのか、そのメカニズムを説明し、土の保水性を表す指標として土中水のポテンシャルという概念を提示 する。特に毛管現象が保水のメカニズムにおいて重要であることが示される。土中水のポテンシャル概念を理解することにより、水分特性曲線という保水性に欠 かせない曲線の重要性も知ることができる。
現場では毛管現象、可動水、不動水、団粒の発達した土の保水性など理解することで、計画地土壌の設計貯留量の計算に役立つ。
「環境地水技術」の中心をなす章である。ここでは、土の中の間隙がすべて水で満たされている場合の水移動(飽和流)と、土の中の間隙に水と空気が共存している場合の水移動(不飽和流)との違いを明確にする。
飽和流はダルシーの法則に従って移動するが、日本のように土壌が幾層からなる地盤は、ダルシーの法則を単純に適用することができない。そのため、成層土の飽和透水係数と水圧分布という計算例を含めた項を設けた。
また不飽和流は自然界のいろいろな場面で登場するので、不飽和浸透流の諸相という項を設け、特に地表面で雨水が浸透するときに重要となる浸潤現象と、雨水が浸透してからしばらく時間が経過したあとに生ずる再分布現象という2 つの過程を説明した。
現場では計画地土壌の許容保水能力、貯留浸透設計、施設配置計画、浸透施設の底盤深度の確定に役立つ。
水とともに土の中を移動する化学物質や汚染物質などの挙動を支配する原理、すなわち溶質移動のメカニズムが記述されている。 拡散、移流、水力学的分散といった、やや馴染みの薄い概念が登場するが、このような概念が土壌浄化や地下水汚染といった環境問題の基礎であることを知るこ とができる。
現場の応用で土中の水の移動による効果は何か、土壌はどうして浄化能力があるのか、計画・設計時に重要となる留意点は何かを理解できる。そして、処理施設の構造設計に役立つ。
土の温度、地表面の熱収支、土の中の熱伝導現象、比熱・容量・温度伝導度といった興味深い概念が提示される。特に、土の中の熱伝導現象においては水や水蒸気が輸送する熱の影響が大きいことを知ることができる。
現場の応用で土壌浸透施設は地表面の雨水流出抑制効果の他、地表面の水分蒸発による温度コントロールや、健全な水循環と共に熱の循環にも寄与しているこ と、熱移動が環境保全に重要な意味を持っていることを理解できる。浸透施設の埋め戻し材の選定、表層仕上げ方法等に役立つ。
土の中にはどのようなガス成分が存在し、それらはどんな法則で移動するのかが記載されている。また近年、注目が大きい温室効 果ガスとしてのCO2 が土壌中でどのように発生・移動し、大気とのガス交換にどのように影響するかといった環境問題にまで論及する。
現場での応用は地中でのガス成分や発生原因、移動など、その現象が透水速度(飽和透水係数など)に及ぼす影響を理解でき、浸透施設の構造設計に役立つ。
1 章から6 章までで学んだ土壌中の移動現象を数学的に取り扱う手法が記載されている。現場計測を目標とする場合、必ずしも数学的理論解析をすべて学ぶ必要はないの で、この章は関心のある読者、または必要に迫られた読者が学べば良い。
環境地水技術に必要な各種測定法の原理が示されている。原理を理解しないでも測定方法さえ知れば十分と考える人 であっても、自ら手を下した測定方法の原理を知りたくなることがある。その時に、この章を利用すると良い。特に、負圧浸入計による現場透水試験という項 は、環境地水技術として重要である。
負圧浸入計とはディスクパーミアメータの和訳であり、従来のボアホール法やサンプリング法に替えて推奨しなければならない新手法である。この手法は原理 を理解しようとすると、どうしても数式の展開を追いかけねばならず、多少、難解ではあるが原理はゆっくりと時間をかけて把握することとし、手順を先に覚え
て熟練度をますことによって良好なデータを取得できるようになる。このことを念頭に置いてこの章を読んでもらいたい。
現場では貯留浸透施設の計画において、計画地土壌の浸透処理能力の算定が施設規模に大きく影響することがわかる。この章では、負圧浸入計と従来の測定方法との違いを理解することができる。負圧侵入計は事前調査、中間試験(土壌掘削時)、完成後の能力試験に適応できる。
土壌物理の基礎概念や測定手法が自然環境問題にどのように応用されるのか、その一端を示した。基礎理論の応用は、時間とともに発展、拡大していくものなので、ここで記述された例はごくごく限られた例に過ぎない。雨水貯留浸透法のような新しい技術と土壌物理学概念が結びつくためには、現場対応技術のさらなる展開が望まれる。
現場で雨水浸透施設の設計にもっとも重要となる土壌に対する概念は、土質工学や水文学等と土壌物理学とでは異なる部分が多く、その違いを理解することができる。貯留浸透施設の計画、設計、施工すべてに役立つ。さらに、全章にわたり、章末問題と解説付きの解答が付してある。これらは、大学の教室で実際に学生とのやり取りで生じた疑問点などを元にした問題なので、本文とともに参考にして頂きたい。
以上のように、『土壌物理学』は数式表現を極力抑え、物理的なイメージが鮮明になるように工夫して記述された教科書であり、発売直後から全国の大学で採用され、あるいは書店で見つけた学生が独学で読み込んでいると聞く。著者とは遠く離れた大学の学生が、独学でこの本を読み、著者の研究室の大学院への進学を決めたという学生もいる。今後、環境地水技術を新たに学ぼうという意欲を持つ一般技術者においても、「今さら基礎を学んでも……」といった躊躇をはねのけて、本書の内容に触れて頂ければ幸いである。かならず興味を惹かれ、問題意識を向上させるのに役立つのではないかと期待するところである。
環境地水技術研究会広報部
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