地水の存在と挙動、地水の役割、土の間隙、土粒子表面の水、土の粒子と粒子が 結合した団粒構造などについて。水の土壌浸入現象では条件により浸入現象が異なること、火山の噴火により埋もれたイネ科植物根、土中の小動物の活動により 生ずる微細な空洞(マクロポア)、土中の亀裂の影響などについて解説。土の中の水や熱移動、地表面の熱変化、ガス移動、成分などを説明。
土壌微生物の種類、同じ種類の土でも利用形態が異なると微生物の種類や量も異なることを解説。飽和透水係数は土壌微生物活動の影響を受けるか、減少や回 復はどのような条件下で変化するのか計算。土の不均一とは何か、自然界に均一な土は存在しないなどを解説。土壌は水の循環および生物の進化と共に変化して きたが、土壌劣化の原因は何かなど環境地水技術の基礎となる理論を記している。
ポイントは、従来の貯留浸透施設で容器などの貯留量を重視する施設設計が多い。これに比べ環境地水技術は土壌特性を把握し、土壌の浸透貯留能力を重視し た施設設計をすること。日本の土壌は火山灰堆積土が多い。特に関東ロームと呼ばれている火山灰堆積土は間隙率( 土粒子と土粒子のすきま)
が80%もあり、世界でも珍しい。土壌微生物活動で発生するガスやその活動により酸素量が減少すると水の浸入も変化するなど貯留浸透施設の設計・施工に不 可欠であることが理解できる。
雨水流出抑制をするために貯留浸透手法を用いる設計条件の設定、現地調査時の留意事項、設計・施工時の確認項目や開発許可申請時の貯留浸透計画策定手順を記し、解説する。
ポイントは水文学( 降雨から流出に至る水収支などを解明する学問)、土壌物理学の両視点から必要と思われる確認項目を記してあるので、計画時の現地調査や許可申請資料の作成に参考になる。
もっとも重要な土壌調査方法と調査項目、異なる試験方法により得られた土 壌の透水能力、保水能力データ、関東ロームの土壌特性調査データ、最新の試験装置の操作手順、飽和透水係数の算定式、計画地土壌の許容保水量の算定方法、 透水試験方法により異なる飽和透水係数など詳細に記している。
重要なことは、異なる各種透水試験方法により得られた各飽和透水係数を使用し、算定した場合、どの程度、浸透処理量は異なるのか。また、各種透水試験方 法により飽和透水係数はどうして異なるのか、土壌構造によりどうして保水能力は異なるのか。保水能力を把握するための算定方法など知ることができる。
本書の中核であるため、民間による宅地造成開発事例として千葉県八千代市、成田市。公共事業の治水対策事例として 千葉県立八街高校、佐倉高校。道路からの雨水流出抑制および水質汚濁物質削減事例として広域農道、市道、国道で実施。大型商業施設の事例として埼玉県の各 雨水流出抑制施設の概要と効果検証結果、データ解析などの内容となっている。
事例の「ハミング八千代土壌調査研究概要」では、調整池に代わる施設として設置した雨水流出抑制再利用施設と、年間降雨量、月日時間の最大降雨量、実降 雨に対する時間当たりの流入量、貯留量、浸透量、雨水有効利用量等の調査。火山灰堆積土の土壌特性・浸入プロセス、地下水位変化など東大と共同で行なった 調査を説明。9年間の連続データから実降雨日を解析、流出抑制能力についての検証結果など記している。
計画地の土壌構造や土中の水の動向、最大時間降雨時、連続降雨時の貯留浸透施設による流出抑制効果など、水文学に基づく貯留浸透能力の算定と土壌物理学 的視点からの算定が記してあり、比較することができる。設置施設の維持管理方法や今後の課題についても詳しく知ることができる。
事例としての「千葉県八街高校校庭貯留浸透施設」は事業の目的、貯留浸透施設の施工状況、施工後、土壌浸透能力の変化を東京大学環境地水学研究室と調 査。同大学との調査結果と、行政の検証結果から日雨量47㎜以上の降雨による流出抑制効果についての調査結果を記載した。調査結果、グランドの土壌に比べ 改良された貯留浸透施設の飽和透水係数は44000 倍の透水性であった。
計画の時は浸透量よりも貯留量が重視された時代であった。貯留浸透施設を校庭の縁辺部、地下に配置、埋め戻し材にガラスカレット(リサイクル品)を使 用、ガラスカレットの透水性や土壌改良効果が期待された。斬新なこの手法は注目され、NHK テレビ局により現地から実況中継され全国に放映された。
これまで貯留浸透施設、施工後の効果について異なる視点からの解析は少なく、今後の貯留浸透技術を向上させる資料として役立つ。
事例「千葉県立佐倉高校校庭貯留浸透施設」は設計条件の検討、施工状況、初期降雨時に発生する汚濁物質の流出(ファーストフラッシュ現象と言う)対策、掘削後の底盤面と、ガラスカレットを混入させて改良した底盤面の透水試験結果を比較した内容となっている。
施工前の透水試験による係数と掘削後の係数の違い。自然堆積した土壌部分と盛り土部分の係数の違い。重機による掘削、整地後の底盤面は透水係数にどの位 の影響を与えるのか。攪乱された底盤面の改良をするとどの程度の回復が見込めるのか。火山灰堆積土は攪乱により土壌特性が阻害されることや、盛り土部分は 透水性が悪く浸透処理に適していないことがわかる。
事例「千葉県成田市における宅地開発」は宅地、集会所、街区道路、公園、合計開発面積1,25ha の雨水排水施設として、計画別に異なる貯留浸透施設を分散配置し、調整池に代わる工法を計画した。
かつて調整池を設ける雨水排水処理計画以外は認められていなかった。この計画地は河川への放流が困難で、従来の施設を設ける雨水処理ができず開発ができ なかった場所であったが、貯留浸透施設による雨水処理手法が認められ土地の有効活用が可能となった。そのために雨水排水・貯留浸透計画を策定、計画地域に 適応される雨水排水基準を十分満たすことの立証が必要とされた。
許可申請に必要な開発計画と雨水排水計画の概要、前提条件、河川計画規模の降雨による開発地からの流出量計算、浸透施設の計画概要、維持管理計画の概要 などの提出資料の詳細を記している。この開発事業が完成し販売後、予期せぬトラブルが発生した。その原因である定期的な維持管理体制の欠如についても言及 している。
貯留浸透計画の策定方法、施設の構造、設計者の現地調査時の立会い、建築工事中の浸透施設の保全方法、入居時の浸透施設の機能確認など留意事項を知ることができる。
事例「道路からの雨水流出抑制施設」は、県営広域農道の貯留浸透施設の設計計算、施工状況の解説。既存国道296号線の路面から流出する汚濁物質の削減 と、雨水の流出抑制を兼ねた整備状況、施工状況。既存市道の冠水対策と浸透処理量の算定、解説となっている。国道296号線について設置後の効果について
検証されている。降雨時、水質汚濁要因となる道路面の粉塵など流出するが、その量は初期降雨時がもっとも多い。初期降雨時に発生する物質移動現象を知るこ とができる。
事例「国道464 号線、浸透マスの設置事例」は、異なるタイプの浸透マス( 通水ダクト式浸透枡) が設置されており、各浸透マスの貯留浸透能力の算定を記してある。この施行現場の土壌特性調査(3 章 透水試験により異なる飽和透水係数参照)は、試験方法により飽和透水係数が異なる理由を知ることができる。土壌浸透設計に役立つ。
事例「埼玉県における貯留浸透事例」は、大型商業施設の開発計画に採用された実際を紹介。完成後の降雨時の貯留浸透施設の状況、貯留浸透施設の流入口付近で発生した冠水の原因、解消対策方法を記している。
埼玉県の雨水流出抑制施設の容量等の算定方法は、県内を地域別に3ブロックに分割、各ブロックの調整容量が異なる。集水面積、土地利用別流出係数、貯留 浸透施設への導水方法、礫材等を使用した間隙貯留浸透施設の効果的な設置深度、その深さに達するまでの流入水の動向、速度などを考察。計画時に施設の構
造、設置場所を決めるときにどのようなことに注意すべきか知ることができる。計画地の貯留浸透施設の配置計画、および施設を分散配置する場合の各施設規模 の確定に役立つ。
千葉県印旛沼流域において水循環の健全化の取り組みを紹介している。
印旛沼と流域で過去~現在の水収支の変化、土地利用に伴う指標の変化、流入する物質量などの調査データと緊急行動計画を解説。市街地から流出する水質汚 濁の要因となる物質の調査では、流入河川の水質調査、水質分布、既存調整池の堆積物質、降雨時の濁度、水位変化、調整池の改良効果などのデータを記してい る。
初期降雨時の物質の移動現象では道路、宅地の屋根面に堆積した物質が降雨時、どのような動きをするのか。既存道路や宅地に設置した通水ダクト式浸透マス と従来型浸透マスの機能の違い、前の降雨日から次の降雨日までの晴天日数期間により異なる濁度ピークなどの調査結果を記している。
土壌の放射能汚染と農作物への影響では、セシウム137の降下後の表土入れ替え処理は有効か。汚染土壌や汚染下水汚泥を地下に埋設する場合、地表面においてセシウム137から出るガンマ線を減らすための条件など紹介している。
既存市街地から流出する汚濁物質対策や、新規宅地開発などにおける雨水排水計画の策定、健全な水循環の回復にむけた流域の策定計画など参考になる。
日常生活において雨水を有効に活用するための解説をしている。
雨は資源であり、庭などの散水、車やトイレの洗浄水、冷却水や災害時の非常用水として雨水を利用することは河川、下水道などの負担を軽減することができ る。雨水活用施設を造ることで流出抑制率は大きくなる。特にアスファルト舗装やコンクリート、屋根など被覆面積の多い都市部において流出抑制効果が期待で きる。新規住宅開発などに導入する計画・設計時の参考になる。
リサイクルされたガラスカレット(多用途びんの破砕品)を火山灰土壌(関東ローム)に混合した場合、土壌はどのような影響を受けるのか研究内容を記している。
水の透水性は土壌構造によって変化する。このことは3章「土壌調査」などで学んだ。密度の違いや地質によって透水性が変わることである。この性質を知った上で、リサイクル品で開発されたガラスカレットを効率よく使えば、土壌の浸透性を高められることが解説されている。農作物などの保水調整も可能にし、作物に合った透水性をガラスカレットで調整すれば驚くほどの成長が得られる。この章は千葉大学との共同研究による。
なぜ、ガラスカレットを土に混合すると有効な透水性が得られ、治水や保水に役立つのか。ガラスカレット表面に帯電しているプラスイオンと、マイナスに帯電している粘土鉱物が電気的に結びつき、団粒が形成されていることがわかってきた。しかし、予定地土壌の特徴を分析した上で、ガラスカレットの大きさ、配合量を調整して使わなければ逆効果も起こる。この調査には最新の現場透水試験装置や室内試験用機器を使えば容易にデータ化できる。
この章で実験に使用したガラスカレットは、ワインや焼酎などの容器として使用されている色のついた多用途びんを破砕したもので、実験当時はほとんどが埋め立て処分されていた。板ガラスや強化ガラス等は多用途びんと異なり、土壌団粒化を促す効果や火山灰土壌に配合しても植物生育に適した培養土とならない。多用途びんの破砕品であっても品質に注意する必要がある。
「土壌の貯留浸透予測法の開発」
本稿は「4章・貯留浸透施設の設計・施工事例」、ハミング八千代土壌調査研究概要と一部重複するが、代表的な火山灰堆積土壌である関東ロームの深度50cm
~200cm間の土壌特性を克明に記している。長期自動測定による地下水圧と降雨量の時間変化、地下水位上昇速度の日変化、体積含水率増分の変化、雨量と土壌水分量の関係など、浸潤により地中の状況はどのように変化していくのか知ることができる。この内容は2000年、国の中小企業の開発事業計画に認定を受け、2001 年、千葉県新産業創造研究開発の補助金を受ける。
東京大学環境地水学研究室との共同研究により関東ロームの雨水浸透能力、保水能力など土壌特性の測定と解析法を開発した結果を取りまとめたものである。国内で初めての調査、研究資料であり、関東ロームの土壌特性、有効的な浸透槽深度、地表面からの雨水浸潤プロセス、地下水位の変化、関東ロームの保水能力等、現地調査を理解することができる。分散貯留浸透施設の構造と経済的な規模、配置計画、浸透処理量の設計計算・施工に役立つ。
「用語の解説」
よく使用される土壌物理用語と、水文設計に使用されている用語を抜粋し解説した。
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